2013年11月13日水曜日

ルリタテハ


 小学校4年くらいだったと思う。団地に住んでいたので、ルリタテハはその頃までほとんど見たことがなかった。父は交代勤務で昼に出勤して夜帰って来る日もあった。ちょうどそんな父が昼に出勤する日のことだった。

 日曜日だったので父を駅まで見送りに行く途中、住棟の壁に1頭のルリタテハがとまっていた。最初に見つけたのは父だった。父に「ルリタテハだ!珍しいな。採ってやるから網を取りに行ってこい。」と言われ、急いで網をとりに家に帰った。秋だったので虫取り網はなく、タモ網を持って行ったような気がする。
 ルリタテハはまだおり、父が言葉通り捕まえてくれた。

 「兄ちゃんに標本にしてもらいな。」と父は言うと出勤していった。家に戻り兄に標本にしてくれるよう頼むと、兄は家にあった段ボールで即席の展翅板を作ってくれた(この頃は今のように物が溢れているような時代ではなかった)。虫ピンもまともなものがなく、ワイシャツについていたやつのような短い虫ピンを刺して展翅してくれた。初めて見る「展翅」という技法だった。

 展翅が終わると「いつはずせるのか」が子供には一番の感心事である。大人のように気が長くないから、夜にははずせるものと思っていたがそうはいかなかった。でも、待ちきれずに2~3日ではずしてもらったような気がする。

 展翅板からはずされたルリタテハは標本箱に収められた。標本箱は工作用紙のような厚紙で兄がこのために作ってくれた。虫ピンを刺すところには小さく切った消しゴムが付けられていた。蓋はなく、セロファンがはられていた。箱の外周はスプレーで茶色く塗られていた。これが自分で手にした初めての蝶の標本だった。

 作ってもらった展翅板は、暫くの間標本作りに使われ続けたのだった。標本作製道具が中々手に入らなかった時代の話である。

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